生まれつきの二重国籍者は国籍選択届を出せば重国籍が黙認されるって本当?

大坂なおみ選手のように国籍選択届を出せば、成人しても二重国籍を持ち続けられる?
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こんにちは!フランス在住のKokoです。我が家の子供たちは出生による重国籍です。

重国籍をもつお子さんの(あるいは、ご自身の)国籍選択について、どうしようか悩んでおられる方が多いですよね。

日本国籍と外国籍のどちらを選んだらいいんだろう?

国籍選択期限が来ても国籍を選択しないままの人が結構いるらしいね。

「国籍選択届」を出して日本国籍を選択したことにして、一方で外国籍は離脱しないまま、合法的に重国籍を持ち続けられるようにしている人がいるって聞いたけど?

私は国籍関連の知識が必要な業務に携わった経験があり、その時に重国籍関連の法律や実情について知識を深めることができたのですが、皆さんが国籍選択について考えられる際の参考にしていただけたらと思い、本記事を書くことにしました。

本記事では、話題になった大坂なおみ選手の国籍選択の話も交えながら、以下のような疑問について分かりやすく説明します。

  • 重国籍者の国籍選択方法にはどんな方法があるのか?
  • 実際、他の人たちはどの方法で国籍選択をしているのか?
  • どんな理由で日本国籍を選択し、どんな理由で外国籍を選択しているのか?
  • そもそも他の人たちは国籍を選択しているのか?
  • もし国籍選択期限までに国籍を選ばなかったらどうなるのか?

ネットニュースなどで、

「大坂なおみ選手の二重国籍が認められた!」

「日本が(二重国籍を)全く認めていないと当事者さえも勘違い。実は正直者が損をする?」

というようなタイトル、論調の記事を目にしますが、それは一体どういうことなのかについても解説しますね。

本記事は、記事タイトルにもある通り、出生により重国籍となった人、国際結婚などにより自動的に国籍を付与されて重国籍となった人を対象としています。

自ら希望して外国籍を取得した人はその時点で日本国籍を失っていますので、重国籍者ではありません。日本は、「自己意思で外国籍を取得した人」については重国籍を認めていません(国籍法第11条第1項)。

クリックできる目次

一定期間重国籍であることが認められていて、期限までに国籍選択をしなければならない重国籍者とは?

日本は「国籍唯一の原則」を採っており、原則重国籍を認めていません。

ですが、生まれつきの重国籍者、国際結婚などで自動的に外国籍を付与された重国籍者については、一定期間(国籍選択期限まで)重国籍であることを認めています。

「一定期間」認められているだけなので、国籍選択期限(後述)までに国籍を選択しないといけません。

一定期間重国籍であることが認められている重国籍者は、次のまたはの人たちです。

  1. 出生により重国籍を取得した場合
    ※海外で生まれた場合、出生後3ヶ月以内に出生届(国籍留保届)を提出していることが条件
    • 日本人の父または母と、血統主義を採る外国の国籍を有する母または父との間に生まれた場合(例:フランス、ドイツ、フィリピン)
    • 日本人の父または母(または日本人父母)の子として、生地主義を採る国で生まれた場合(例:アメリカ、カナダ、ブラジル、ペルー)
  2. 日本人が国際結婚などで自動的に相手国の国籍を付与されて重国籍となった場合(例:イラン、サウジアラビア、アフガニスタン)

<血統主義とは?生地主義とは?>

  • 血統主義」=誰の子であるかを基準にし、子は親の国籍を継承するという方式
  • 「生地主義(出生地主義)」=どこで生まれたかを基準にし、出生した国の国籍が付与される方式

血統主義には、「父母両系血統主義」「父系優先血統主義」があります。

今の日本は 「父母両系血統主義」 を採っていて、父親か母親のどちらかが日本人であれば子に日本国籍が付与されます。ですが、1985年の国籍法改正までは、父親が日本人の場合のみ子に日本国籍が付与されていました(父系優先血統主義)。1984年以前に外国人父と日本人母の間に生まれた子には日本国籍が付与されていませんでした。

Koko

「日本人の母から生まれた子は日本国籍を取得する」という、今皆さんが当然だと思っていることも、当たり前じゃない時代があったんです。

生地主義を採っている国で生まれた場合、親がどこの国籍を持っていても、例えばアメリカで生まれた子にはアメリカ国籍が、カナダで生まれた子にはカナダ国籍が無条件で付与されます。両親ともに日本人の場合でも、アメリカで出産すると子はアメリカ国籍を取得します。

自動的に国籍を付与されて重国籍となるケースとは?

出生による重国籍者に比べると数は少ないですが、次のような場合に相手国の法令により外国籍を自動的に取得する場合があります。

  • 外国人との結婚
  • 外国人との養子縁組
  • 外国人父からの認知

また、親や配偶者の外国籍取得にともない、子や配偶者が自動的に外国籍を付与される場合もあります(例:アメリカ)。

それ以外にも、国によって様々なケースがあります。

  • ドイツでは、両親ともに日本人であっても、子の出生時に両親の一方がドイツ国籍法に定める条件(8年以上合法的にドイツに在留し、かつ無期限の滞在許可を所持)を満たしていれば、自動的にドイツ国籍を付与されます。
  • フランスでは、両親ともに日本人であっても、フランスで生まれ18歳になった時点で、自動的にフランス国籍を付与されます。

一方、自らの意思で外国籍を取得した場合は、外国籍を取得した時点で自動的に日本国籍を喪失します(国籍法第11条1項)。一瞬たりとも重国籍にはなりませんので、「まず外国籍を取得して、外国籍と日本国籍のどっちを選択するか考える」ということはできません。

自らの意思で外国籍を取得したケースについてもっとくわしく知りたい方は、こちらの記事にくわしくまとめていますのでお読みください。

実は、国籍選択手続きをしなくてよい重国籍者もいる

実は、重国籍者であっても、国籍選択の手続きをしなくてよい重国籍者もいます。

それは、国籍選択制度施行より前(1985年1月1日より前)にすでに重国籍だった人です。この人たちが国籍選択期限までに国籍選択をしなかった場合は、自動的に日本国籍を選択したものと見なされているため国籍選択の手続きは不要です。

附 則 (昭和五九年五月二五日法律第四五号) 抄

(施行期日)

第一条 この法律は、昭和六十年一月一日から施行する。

***(中略)***

(国籍の選択に関する経過措置)

第三条 この法律の施行の際現に外国の国籍を有する日本国民は、第一条の規定による改正後の国籍法(以下「新国籍法」という。)第十四条第一項の規定の適用については、この法律の施行の時に外国及び日本の国籍を有することとなつたものとみなす。この場合において、その者は、同項に定める期限内に国籍の選択をしないときは、その期限が到来した時に同条第二項に規定する選択の宣言をしたものとみなす。

日本が二重国籍を認めない理由

日本は、出生や、国際結婚などによる国籍自動付与により重国籍者になった人たちについては、一定期間重国籍であることは認めているものの、原則として重国籍は認めていません。

期限までに、日本国籍か外国籍か、いずれかの国籍を選択しなければならないことになっています。

法務省による「国籍選択する必要がある理由」「重国籍の弊害」

国籍選択をしなければならない理由については、現在、法務省のホームページで次のように説明されています。

国籍を選択する必要があるのは、重国籍者が2つ以上の国家に所属することから、

a. それぞれの国の外交保護権が衝突することにより国際的摩擦が生じるおそれがある、

b. それぞれの国において別人として登録されるため、各国において別人と婚姻するなど、身分関係に混乱が生じるおそれがある、

等のためです。

引用:法務省「国籍 – 国籍Q&A

2004年にも、衆議院法務委員会で、法務省の房村精一民事局長が同様の発言をしています。

重国籍の場合の弊害ということですが、やはり二つの国籍を持ちますと、どうしても二つの国に対する忠誠が衝突をする、あるいは、国の方からいいますと外交保護権が衝突をする、そういうことによって問題が生ずるおそれがあるということがまずあるわけでございます。

それから、重国籍ということになりますと、それぞれの国で身分関係を管理するといいますか、登録をするということになります。そういたしますと、例えばAとBの両方の国籍を持っていて、Aの国で婚姻をしたことについてはA国が把握をする、それをまた独立にB国の方で身分関係を把握いたしますので、重婚というような関係が生じやすくなる。そういうことから、身分関係に混乱が生ずるおそれがあるということが言われているわけでございます。

そのほかいろいろあろうかと思いますが、大きく申し上げますと、以上のような点が重国籍の弊害と言われております。

引用:第159回国会 衆議院 法務委員会 第33号 平成16年6月2日

実際には、重国籍の弊害が発生した事例はない

実際に重国籍が原因で問題が起こったという事例があるんですか?

2004年の上の答弁に続いて、次のやりとりがありました。

松野信夫 衆議院議員

現実にこういうような、今三つ(注)挙げられたような弊害が現に発生をして、トラブったというようなことがあるのかどうか、この点はどうですか。

房村精一 法務省民事局長

古いことはわからないんですが、最近におきまして、私どもとして、具体的に重国籍で何らかの問題が生じたという事例は把握しておりません。

引用:第159回国会 衆議院 法務委員会 第33号 平成16年6月2日

(注)「三つ」=忠誠義務、外交保護権、重婚などの身分関係の混乱

このやりとりがあった2004年時点の重国籍者数は40万~50万人と推定されていますが、それだけもの重国籍者がいながら重国籍の弊害が発生した事例はないとのこと。また、その後現在(2018年の重国籍者数は推定で89万人)に至るまでも、重国籍者の存在が問題になったという事例は報告されていません。

国籍選択は何歳までにしないといけない?

日本国籍と外国籍をもつ重国籍者は、定められた期限までに国籍の選択をする必要があります(国籍法第14条第1項)。

(国籍の選択)

第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が十八歳に達する以前であるときは二十歳に達するまでに、その時が十八歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

つまり、国籍選択期限は次の通り。

  1. 18歳になる前に重国籍だった人は、20歳の誕生日まで
  2. 18歳になった後に重国籍になった人は、重国籍になった時から2年以内
Koko

ほとんどの人は生まれつきの重国籍者なので、ほとんどの人は20歳の誕生日までに国籍を選ばないといけないということです。

「あれ?国籍選択期限の年齢って22歳じゃなかったっけ??」と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、2022年4月1日以降、日本での成人年齢が20歳→18歳に引き下げられたことにともない、国籍選択期限も22歳の誕生日まで→20歳の誕生日までに変更になっています。

国籍選択期限が近かった人には移行措置がありますが、くわしく知りたい方はこちらの記事をお読みください。

ちなみに、国籍選択期限までに国籍選択をしていない重国籍者には、期限が過ぎてからもずっと国籍選択の義務があり続けます。

それでは、国籍を選択する方法についてみていきましょう。

二重国籍者の国籍選択方法は4つ。実際は「国籍選択届」「国籍離脱届」の二択

次の図「国籍選択の流れ(概要) 」 を見るとお分かりいただけるように、国籍を選択する方法は4つあります。

重国籍者が国籍を選択する4つの方法。「国籍選択届」を出し、日本国籍の選択宣言をする大坂なおみ選手のパターンは、外国国籍の離脱は努力義務にとどまる。
出典:法務省「国籍の選択について
(赤字部分は著者が追加)

外国の国籍を選択する方法が2つ日本の国籍を選択する方法が2つです。

上図の左から順番に、

  1. (上図の1-(1)) 日本国籍を離脱することで外国籍を選択する方法
    • 「国籍離脱届」
  2. (上図の1-(2)) 外国の法令が定める方法によりその国籍(外国籍)を選択し日本国籍を放棄すると宣言する方法
    • 「国籍喪失届」
  3. (上図の2-(1)) 外国の法令により外国籍を離脱することで、日本国籍を選択する方法
    • 「外国国籍喪失届」
  4. (上図の2-(2)) 日本の国籍を選択し外国籍を放棄する旨の宣言をすることで、日本国籍を選択する方法
    • 「国籍選択届」

①~③の方法では、結果的に外国籍または日本国籍のどちらかひとつになり、重国籍が解消されます。

ただし、④の方法では、国籍選択の義務は果たしたことになりますが、あくまで「宣言」であって、外国籍の離脱は努力義務にとどまる(必ずしも重国籍が解消されるとは限らない)ことに注目してください(後でくわしく説明しますね)。

Koko

離脱?喪失?選択? ...
「4つの方法の違いがよく分からない!」と頭がパニック状態かもしれません。

Koko

ご安心ください。
国籍を選択する方法は4つありますが、生まれつきの重国籍者が実際に行っている国籍選択方法はほぼ「国籍離脱届」「国籍選択届」のどちらかなので、これからこの2つの方法に焦点を当ててご説明しますね。

生まれつきの重国籍者が実際に行っている国籍選択方法はほぼ次の二択です。

  • 外国籍を選択するなら「国籍離脱届」
  • 日本国籍を選択するなら「国籍選択届」
Koko

ちなみに、「国籍離脱」「国籍選択」「国籍喪失」などと言う場合の「国籍」はいつも日本国籍のことを指します。

では、次からの2章で、日本国籍を選択する「国籍選択届」、外国籍を選択する「国籍離脱届」についてそれぞれくわしくみていきましょう。

国籍選択者の多くは、大坂なおみ選手のように「国籍選択届」を出し実質二重国籍状態

国籍選択者の多くは、大坂なおみ選手のように「国籍選択届」を出し実質二重国籍状態になっている

実際に国籍選択をしている人の中で一番多いのが、日本の国籍を選択し外国の国籍を放棄する旨の宣言をする方法です。

生まれつきの重国籍者の中でも特に日本に生活のベースがある日本在住者の場合は「国籍選択届」を出している人が多いです。

1985年(国籍選択制度の施行年)~2015年に「国籍選択届」を出した人は48,691人(数字の出所はこちら)。

「日本が事実上二重国籍を認めている」と言われる理由のひとつはこの「国籍選択届」にある

「国籍選択届」を出す理由

国籍選択を行う重国籍者の中で「国籍選択届」を出す人が一番多いのはなぜでしょうか?

  • 日本に生活のベースがあり、これからも日本人として生きていきたいから日本国籍を選択する
  • 日本国籍を選択した方がメリットが大きいから日本国籍を選択する

という人ももちろんいるでしょう。

でも、実は、

  • 「国籍選択届」を出すと合法的に重国籍を持ち続けることができる

という理由でこの方法を選ぶ人も多いのです。

「国籍選択届」の届出用紙(上の画像中、赤丸で囲んだ部分)には、

日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄します

という文言が印刷されています。

※実際の「国籍選択届」用紙を見たい方はこちら(外務省HP)。

国籍選択届を出して「外国の国籍を放棄します」という宣言をしても、実際にはほとんどの人が外国籍を放棄(離脱)していないと思われます。

Koko

日本の外交官になるために、外国籍を離脱したという人の話を聞いたことがあるぐらいです。
(日本の外交官の採用条件は「日本国籍を有し、外国籍を有しない者」と定められています。)

Koko

あとは、自民党の小野田紀美議員。「国籍選択届」提出後に米国籍を離脱されています。
(ちなみに、現在の法律では、日本の国会議員になるためには「日本国籍があること」だけが要件であり、外国籍の有無は問われていません。)

えっ?
宣言だけして、実際には外国籍を放棄(離脱)しなくてもいいの?

外国籍の離脱は努力義務

国籍法第16条1項に次のようにあります。

第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

つまり、外国籍の離脱はあくまで「努力義務」にとどまっているのです。

なぜこんなあいまいな表現になっているんですか?

なぜなら、本人の意思に反して、外国籍を離脱できない、離脱が困難だという状況があり、日本政府がそういった状況に配慮しているからです。

そもそも国籍の離脱を認めていない国があります。国籍の離脱手続きが非常に困難な国もあります。高額な手数料を払わないと国籍離脱できないなどという困難な条件を課す国もあります。

Koko

前述の小野田議員は、米国籍離脱の際 2,350ドルの手数料を支払ったそうですよ。

例えば、ブラジルやアルゼンチンの国籍離脱は大変困難だと聞いたことがあります。

国籍はその国の主権にかかわる問題ですから、日本政府は外国政府に、

「日本の法律では二重国籍を認めていません。おたくの国籍を持っている誰々さんが日本国籍を選択しましたから、おたくの国籍は離脱させてくださいね。」

とは言えません。

次の、2004年の答弁にもある通り、日本政府は、日本国籍選択者が実際外国籍を離脱したかどうか、外国政府に確認することもしていません。

松野信夫 衆議院議員

日本の方から見れば、なるほど、日本の国籍を選択した、これがわかるわけですけれども、しかし、その人が当該外国の方の国籍を本当に外れたのかどうなのか、これは、日本政府の方としては、外国の方に問い合わせ、調査などはしているんでしょうか。

房村精一 法務省民事局長

これは、そこまで、本国への問い合わせまでは行っておりません。

松野信夫 衆議院議員

そうすると、現実には、これは全くの推測かと思いますが、日本に対しては日本の国籍を選びましたという国籍選択届を出しておきながら、もう一つの方の外国の方に対しては実は離脱の手続をとらなかった、あるいは、とらないままで、そのままでいたというふうになっても、日本政府の方はわからない、特別に調査しなければわからないということに現実にはなりますね。よろしいですか、それで。

房村精一 法務省民事局長

私どもとしては、わざわざ届け出までして外国の国籍を放棄あるいは離脱したということをおっしゃっている方がそこまで虚偽の届け出をするとも思えませんので、それを信頼しているというところでございます。

引用:第159回国会 衆議院 法務委員会 第33号 平成16年6月2日
Koko

上のやりとりの最後の一文に誤りがあるので訂正。
国籍選択届では「外国の国籍を放棄あるいは離脱した」とは宣言しませんよね。「放棄するつもりだ。放棄する意思がある」と宣言するんです。

日本政府は、実際に外国籍の離脱努力をしているかどうかもチェックしていません。

そもそも国籍法では「努力」の具体的な内容は定められていません

日本国籍選択宣言後の外国籍離脱の努力義務については、

そもそも国の制度で国籍離脱が認められていないんです。

外国籍の離脱をしたいんですが(離脱の努力をしているんですが)、非常に困難なんです。

ということであれば、重国籍状態は合法だと言えます。

国籍選択届」を出したことで、法律遵守義務は果たしたことになります。

外国籍を離脱していないからといって罰則もありません。

それが、「日本は事実上二重国籍を認めている」と言われている理由です。

世界の多くの国では重国籍を容認しています。

日本で「国籍選択届」を出しても、重国籍容認国では、その国の国籍保持に影響がない場合がほとんどだと思います。

ですが、もしかしたら日本に「国籍選択届」を出したことで、その国の国籍保持に影響を及ぼしてしまう(その国の国籍を失ってしまう)国もあるかもしれません。

ですので、「国籍選択届」を出される方は、日本の「国籍選択届」を出すことで外国籍の保持にどんな影響があるのか、その国の国籍に関する法律をご自身でしっかり確認してください。

こんな番組がありました

ご覧になられた方がいらっしゃるかもしれませんが、2021年1月、日本で国籍はく奪条項違憲訴訟が話題になった際、ABEMAで「二重国籍を事実上容認? 日本の国籍をめぐる”本音と建前”とは? 弁護士解説」という番組が放送されました(配信期限切れのため現在は視聴不可)。

この番組の最後で、まさに上でお話しした通りの、次のような議論がありましたのでご紹介します。

ドイツ在住の山片氏

「日本がまったく二重国籍を認めていないのではないかと当事者でさえも勘違いしちゃって、自分はお父さんの国籍かお母さんの国籍かどっちかを選ばなくちゃならない、というふうに悩んでいる人がいたりする。」

国籍に詳しい弁護士 近藤博徳氏

「国籍選択はしなきゃいけないんですけども、(中略)選択の結果、日本国籍を選択するけれども、外国籍も捨てないでいるということ、法律もそれは認めているので、それを皆さんに理解してもらって、国籍の選択宣言をしてほしい。そうすれば、複数国籍を持ち続けることができる。」

引用:ABEMA「二重国籍を事実上容認? 日本の国籍をめぐる”本音と建前”とは? 弁護士解説」(2021年1月22日放送。配信期限切れのため現在は視聴不可)

大坂なおみ選手の国籍選択方法は、まさにこの「国籍選択届」を出す方法

大坂なおみ選手は、アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた、生まれながらにして日米国籍をもつ重国籍者です。

これだけの有名人となれば、国籍選択をしないまま国籍選択期限である22歳の誕生日を迎えることはできませんよね。

(さもなければ日本のメディアが...)

大坂なおみ選手は、2019年10月、22歳の誕生日を迎える直前に「国籍選択届」を出し日本国籍を選択しました。

日本国籍選択宣言後は米国籍離脱義務の努力をすることが求められます。

米国籍を離脱するには、別途、米国政府に離脱手続きを行う必要があります。米国籍の離脱は不可能ではありませんが、米国内ではできませんし、手続き自体も簡単なものではありません。

また、米国籍は、離脱時に国籍離脱税(大阪なおみ選手の場合は莫大な金額になるらしいです)の支払いを求められます。

「大坂なおみ選手の二重国籍が認められた!」というのは、

「大坂なおみ選手は、「国籍選択届」を出し、日本国籍を選択し米国籍を放棄する宣言をしたことで、法律遵守義務を果たした。現在は米国籍離脱の努力中であるが、米国籍離脱は非常に困難である。とりあえず二重国籍は合法である。」

ということなんです。

Koko

その後、大坂なおみ選手が米国籍の離脱手続きを行ったという話は聞こえてきませんが、このまま米国籍離脱はされないんじゃないかと思います。
(オリンピックは、米国籍を離脱しなくても日本の代表選手として出場できましたし...)

「国籍選択届」の提出先、必要書類

Koko

国籍選択届は、どんな届出よりシンプルで簡単!

海外にお住まいの場合は管轄の大使館・総領事館へ、日本にお住まいの場合は本籍地役場に届け出ます。郵送でも提出できます。

大使館・総領事館に届け出る場合の必要書類は、「国籍選択届」2通戸籍謄本(6か月以内に発行されたもの)です。(日本の本籍地役場に直接届け出る場合は、戸籍謄本は不要です。)窓口で届ける場合は、念のため、日本のパスポートも持っていってください。

※「国籍選択届」はこちら(外務省HP)からダウンロードできます(A4で印刷。アメリカ、カナダはレターサイズの国なので注意)。

一部、事情があって「国籍離脱届」を出す人も

一部、事情があって「国籍離脱届」を出す人もいる

「国籍選択届」の次に多い(と言っても少数派ですが)国籍選択方法は、日本の国籍を離脱することで、外国籍を選択する方法です。

この場合、重国籍ではなくなります。

2022年の1年間に「国籍離脱届」を出して日本国籍を離脱した人は1,376人(出典:法務省民事局)。

「国籍離脱届」を出す事情とは?

日本国籍を離脱する事情には、例えば、次のようなものがあります。

  1. 外国で重国籍者が就くことができない職業に就きたい(国によって異なるが、政治家や外交官、軍事関連職など)。
  2. 日本政府の外国人国費留学生として、日本で勉強や研究がしたい。
  3. JETプログラムに応募して、日本で外国語指導助手(ALT)または国際交流員(CIR)として働きたい。

日本政府の外国人国費留学生に応募するには次のような国籍条件があります。

1.応募者の資格及び条件

(2)国籍

日本政府と国交のある国の国籍を有すること。申請時に日本国籍を有する者は、原則として募集の対象とならない。ただし、申請時に日本以外に生活拠点を持つ日本国籍を有する二重国籍者に限り、渡日時までに外国の国籍を選択し、日本国籍を離脱する予定者は対象とする。

引用:文部科学省「国費外国人留学生制度について」

また、JETプログラムに関しても、応募要件として国籍については次のように定められています。

応募要件

(5)応募時に、募集選考国の国籍(永住権ではない。)を有すること。なお、日本国籍を有する者は参加同意書提出期日までに日本国籍を離脱する届け出を行うことに留意すること。日本以外の多重国籍を有する者は一つの対象国籍者として応募できる。

引用:JET Programme「応募要件 – 一般要件

他にも、海外の大学が募集している日本での交換留学プログラムなども、日本国籍を持っていると応募できない場合があります。

外国で日本国籍をもつ父または母から生まれ、日本の文化に触れたり、日本語を勉強してきたりして、日本に興味を持っている重国籍のお子さんは、こういった日本の国費留学生制度やJETプログラムに興味を持たれることもあるのではないでしょうか。

もちろん、日本国籍があれば、普通の日本人と同じように日本での勉学や就業の機会は得られるわけですが...

日本国籍を持っていても、日本語がほとんど話せない、日本語がある程度話せても日本人と同じように勉強したり働いたりできるレベルではない、という場合が多いのではないでしょうか。

そのような場合には、こういったプログラムは魅力的ですよね。

Koko

日本国籍を離脱したくないというのが本当のところだと思いますが、「日本国籍離脱のデメリット」と「プログラムに参加することのメリット」を天秤にかけた上での、日本国籍離脱というわけですね。

「国籍離脱届」の提出先など

4つの国籍選択の届出のうち、この「国籍離脱届」のみ届出先が「法務大臣」となっています。

日本の本籍地役場に出すことはできません。海外にお住まいの場合は、管轄の大使館・総領事館へ、日本にお住まいの場合は法務局または地方法務局に届け出ます。

他の届出より必要書類も多く、国籍離脱手続きが完了するまで(戸籍に国籍離脱の旨が記載されるまで)時間もかかります(個々のケースによりますが、短くても3ヶ月ぐらいかかると聞いています)。

※国籍離脱の手続きの詳細は、海外にお住まいの場合は管轄の大使館・総領事館へ確認し、日本にお住まいの場合は「国籍離脱の届け出」(法務省のHP)でご確認ください。

実際、二重国籍を持つ皆さんは国籍選択しているの?

私の海外在住歴もあと少しで25年、色々な国に住み、出生で重国籍となったお子さんをもつお父さんお母さんにたくさん出会ってきました。

重国籍のお子さんをもつお父さんお母さんや大きくなったお子さんたちと国籍選択について話をすることも多々ありましたが、実際には、法律を遵守して国籍選択をしている人よりも、国籍選択の手続き自体していない人の方が多いという印象を持っています(特に海外在住の重国籍者)。

Koko

国籍選択期限を過ぎても国籍を選択していない重国籍者数を知りたいところですが、法務省も把握していません。

では、なぜ国籍選択をしなければならないことが法律で定められているのに、国籍選択をしない人がいるのでしょうか?

22歳の誕生日まで(注)に国籍選択をしなければならないことを知らなかった。
(注)現在は20歳の誕生日まで

という人はめずらしいのではないでしょうか。

国籍選択期限が近づいた人に「間もなく国籍選択の期限が来ますから、選択してくださいね」という通知、あるいは、国籍選択期限を過ぎた人に「国籍選択期限を過ぎてしまっていますから、選択してくださいね」という通知が届くわけではないので、

なんとなく大体このぐらいの年齢になったら国籍選択しなきゃいけないのは知ってたけど、気が付いたら国籍選択期限を過ぎていた。

という人たちはいるでしょう。

実は、日本政府は、1988年から2004年度末までは、国籍選択期限が過ぎた後に国籍選択をしていないと推測される者に対して国籍選択をする必要がある旨の通知(=催告ではありません)を送っていました。現在はこの通知は送られていません。

でも、ほとんどの人は次のように考えておられるのではないでしょうか。

国籍選択制度について自分でインターネットなどで調べたりしてある程度の知識はあるけれど、父親の国籍か母親の国籍か、どちらかを選ぶなんて無理。両親の国籍両方を保持し続けたい。

(海外在住なので)どちらかひとつの国籍を選べと言われたら外国の国籍を選ぶことになるのだろうけど...これまで20年日本の家族に会いに行き、日本文化を伝え、日本語も頑張って教えてきた。
日本国籍は我が子の大切なアイデンティティの一部なのに、それがある日突然なくなってしまうなんて、悲しすぎる。(日本人母)

国籍選択期限までに国籍選択をしないことは法律違反であり、合法に重国籍を保持するために「国籍選択届」を出す人がいるのは知っているけれど...
「国籍選択届」で「外国の国籍を放棄します」と宣言しながら、実際には外国籍の離脱努力をしないことは虚偽の届出になるから、届出を出すことに抵抗がある。

国籍選択しなくても罰則がないみたいだし、日本国籍も喪失しないみたいだし、選択しなくてもいいのかな...

国籍選択期限までに国籍選択をしないことは法律違反ですが、罰則規定はありません。

ただし、期限内に日本国籍を選択しなかった人は、法務大臣から国籍選択の「催告(さいこく)」を受ける可能性があり、催告を受けた場合、催告を受けた日から一か月以内に日本国籍を選択しなければ日本国籍を喪失するとされています(国籍法第15条)。

第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。

(中略)

催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。

でも、実際に「催告」が出されたことは過去に一度もありません。

「催告」によって日本国籍を失った人は一人もいません。

特に海外在住者の場合、結構な数の重国籍者が期限内に国籍選択をしないまま放置されているというのが実情だと思います。

Koko

国籍法では、重国籍を防止・解消するために国籍選択制度、催告の制度が設けられているのに、システムが機能していないと言えます。

  • 法務大臣はなぜこれまで一度も国籍選択の催告を行ったことがないのか?
  • 今後催告を行う可能性があるのか?

などについてはこちらの記事にくわしくまとめています。

あまり知られていませんが、国籍選択期限までに国籍選択をしていなくても、日本のパスポートの更新(切替)はできます。

【まとめ】生まれつきの二重国籍者の国籍選択方法

本記事では、国籍選択をしなければならない人とはどういう人たちなのか、重国籍者の国籍選択にはどういった方法があるのか、実際に重国籍者は国籍選択をしているのか、などについて見てきました。

法務省のホームページによると、重国籍者の国籍選択には4つの方法があるとされていますが、生まれつきの重国籍者が実際に行っている国籍選択方法はほぼ次の二択です。

  • 外国籍を選択するなら「国籍離脱届」
  • 日本国籍を選択するなら「国籍選択届」

大坂なおみ選手が行った、「国籍選択届」を出し「日本国籍を選択し、外国の国籍を放棄する」宣言をする方法が、国籍選択方法として一番多い方法です(特に、日本在住者)。

「国籍選択届」を出すと外国籍の離脱は努力義務にとどまります。

努力の内容についての規定はなく、また、実際に外国籍を離脱していなくても罰則はありません。

「外国籍の離脱をしたいんだけど、非常に困難なんです(または、国の制度で国籍離脱が認められていないんです)」

ということであれば、重国籍状態は合法だと言えます。

そのため、

「(米国籍を離脱してない)大坂なおみの二重国籍が認められた!」

「日本は事実上二重国籍を認めている」

などと言われているのです。

でも、(これはあくまで私の個人的な経験からですが、)特に海外在住者の場合、多くの重国籍者が、国籍選択期限を過ぎても国籍を選択しないまま、重国籍のままになっているという印象を持っています。

国籍選択期限までに国籍を選択していなくても、自動的に日本国籍を失うことはなく、罰則規定もなく、法律に定められている「催告」がこれまで一度も行われたことがなく(今後も「催告」が行われる可能性が低く)、日本のパスポートを持ち続ける(更新する)こともできています。

生まれつきの二重国籍者については、「国籍選択届」を出す出さないにかかわらず、日本政府は積極的に重国籍を解消しようとしていない、事実上重国籍を容認しているように思えます。

国際社会は重国籍容認の方向に向かっているわけですし、私は個人的に(重国籍の子供を持つ親としても)国籍選択制度がなくなってほしいと思っています。

「国際結婚を考える会(JAIF)」が、国籍法改正(国籍選択制度の廃止、日本国籍自動喪失規定の廃止)に向けて国会請願運動をされています。興味がある方はホームページをご覧ください。

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